建造物や風景以外にも、パースが存在します。背景だけパースが整ていても、そこに配置する人物のパースが間違っていると、ちぐはぐな絵になってしまいます。人物にもパースを当てはめて考えてみましょう。今回は人物の見え方についてでのお話です。リアルな人物のミロのヴィーナスの石膏像と、デフォルメされた人物のリカちゃん人形をモデルにしてご説明します。
真正面、真横から見た状態では、顔の奥行きが感じられませんが、顔をちょっと横に向かせるとパースがはっきり見えてきます。眉、目、口、顎にラインを引くと、ラインはおよそ平行か奥へすぼまった感じになります。このラインは、引き伸ばしていくと、遥か先で消失点として一点に集約されます。
人物の顔も体も、建築物ほど厳密でなくてよいのですが、平行に配置されたパーツ(顔の場合、眉、目、口、顎など)がある物体は、パースを意識して描くことが大事です。
また、対象物を見る目の位置によって変化する見え方の違いについてお話します。真ん中が、人物を真横から見た状態です。左が人物を斜め下から見上げた状態…アオリ(煽り)、右が人物を斜め上から見下げた状態…ふかん(俯瞰)です。アオリは、対象物を見る人の目の位置が対象物の下の方にあり、俯瞰は、対象物を見る人の目の位置が対象物の上の方にある状態をいいます。
■アオリ(煽り)…眉の下の面、鼻の下の面、唇の下の面、顎の下の面、がしっかり見えます。この面にしっかり影を落とすと立体感が増して見えます。口と鼻がくっきり見えます。目もぱっちりとした感じで見えます。
■ふかん(俯瞰)…頭の上面、眉と鼻筋、頬の上面がしっかり見えます。この面にしっかり光を当てると立体感が増して見えます。目は瞼と睫毛に重なってあまり見えません。唇もあまり見えません。
ミロのヴィーナスは、アオリで見ると凹凸の深さを感じますね~。眉と鼻の出っ張りがはっきりして見えます。一方、リカちゃんみたいに凹凸感の少ない漫画的な顔でも、立体感に合わせて顔のパーツを描くことが大事です。
人体についての見え方についてお話します。真ん中が、人物を真横から見た状態です。左が人物を下から見上げた状態…アオリ(煽り)、右が人物を上から見下げた状態…ふかん(俯瞰)です。
■アオリ(煽り)…顎の下の面、股の下の面、手の指の側面、足の裏の面がしっかり見えます。この面にしっかり影を落とすと立体感が増して見えます。
■ふかん(俯瞰)…頭の上面、肩の上面、胸の上面、膝の甲、足の甲がしっかり見えます。この面にしっかり光を当てると立体感が増して見えます。
人体を描く時には、可動式のデッサン人形があると大変便利です。人体の比率が完成されている人形を使えば、モデルに様々なポーズをとらせて様々な角度で人物を描くことができるからです。モデルがなくても、デッサンを積み重ね、立体で物を捉え、パースを理解していれば、人物を自由自在に描くことは可能です。